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広島地方裁判所 昭和49年(行ウ)33号 判決

福山市木之庄町一、三五四

原告

中島元春

右訴訟代理人弁護士

打田等

福山市東桜町五-一一

被告

福山税務署長

小西貞次郎

右指定代理人

中路義彦

小島正義

岩井清

重岡蔦夫

右当事者間の所得税更正処分等取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告が昭和四七年九月二八日付でなした(一)原告の昭和四四年分所得税についての更正処分のうち、総所得金額二、八三四、六八六円、税額五四〇、三〇〇円を超える部分及び無申告加算税賦課決定処分のうち、五一、六〇〇円を超える部分、(二)昭和四五年分所得税についての更正処分のうち、総所得金額二、八一一、六七八円、税額四四一、九〇〇円を超える部分及び無申告加算税賦課決定処分のうち、三九、七〇〇円を超える部分、(三)昭和四六年分所得税についての更正処分のうち、総所得金額四、三六一、一二五円、税額七八三、七〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち、三六、四〇〇円を超える部分、をいずれも取消す。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の、その余を被告の各負担とする。

事実

一  双方の申立

原告は、「被告が昭和四七年九月二八日付でなした、(一)原告の昭和四四年分所得税についての更正処分のうち総所得金額六〇〇、〇〇〇円、税額二三、八〇〇円を超える部分及び無申告加算税賦課決定処分の全部を取消す。(二)原告の昭和四五年分所得税についての更正処分のうち、総所得金額八〇〇、〇〇〇円税額四四、七〇〇円を超える部分及び無申告加算税賦課決定処分の全部を取消す。(三)原告の昭和四六年分所得税についての更正処分のうち、総所得金額八四〇、〇〇〇円、税額五四、六〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分の全部を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

二  原告の請求原因

(一)  原告は、家具製造及び貸金業を営むものであるが、昭和四四年分ないし昭和四六年分の所得税について、昭和四七年三月一三日被告に対し左記のとおり確定申告したところ、被告は、昭和四七年九月二八日付で左記のとおり更正及び無申告加算税賦課決定ないし、過少申告加算税賦課決定(以下、本件各処分という)をした。

〈省略〉

(二)  原告は、昭和四七年一一月二五日被告に対し本件各処分について異議の申立をしたが、被告はその一部を認容したのみで残余を棄却した。

(三)  原告は、さらに、昭和四八年三月一九日国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、同所長は昭和四九年七月五日付でこれを棄却し、原告は同月二九日その裁決書謄本の送達を受けた。

(四)  しかし原告の昭和四四年分ないし昭和四六年分の所得金額は、いずれも原告のした確定申告のとおりであるから、被告のした本件各更正処分のうち右金額を超える部分は原告の所得を過大に評価した違法があり、従つて加算税賦課決定処分も違法である。

(五)  よつて原告は、被告に対し本件各処分の取消を求める。

三  被告の答弁

請求原因(一)ないし(三)の事実は認める。同(四)は争う。

四  被告の主張

(一)  原告の昭和四四年分ないし昭和四六年分の総所得金額及び税額に関する原告の申告額、被告の更正額、無申告加算税額、過少申告加算税額、原告の異議申立額、被告の異議決定額、原告の審査請求額、国税不服審判所長の審査裁決額の詳細は別表一ないし三記載のとおりである。

(二)  原告の所得金額の算出根拠について

1  被告において原告が提出した本件各係争年分の確定申告書について調査したところ、右確定申告書には原告の家具製造に係る所得及び給与所得が記載されているのみで、貸金業に係る所得は記載されていなかつた。

そこで被告は、原告に対し本件各係争年分の貸金業に係る所得を調査するため、所得計算の資料となる諸帳薄及び原始記録等の提示を求めたが、これらの保管状況が極めて不十分なうえ、原告から所得金額を計算するに足りる具体的、個別的な説明も得られなかつたためやむなく原告の貸金業に係る所得金額を推計の方法により算出することとした。

なお、原告の家具製造に係る所得金額及び給与所得金額については、原告の確定申告額(昭和四四年分六〇〇、〇〇〇円、昭和四五年分八〇〇、〇〇〇円、昭和四六年分九三四、〇〇〇円)を正当と認定した。

2  原告の貸金業に係る所得金額の推計計算の方法

(1) 原告の収入金額の推計方法

(貸付金)

原告の貸金業に係る収入は、手形割引による利息収入金であるが、原告は、手形割引に際し、〈1〉自己資金による割引(貸付)〈2〉他の金融機関からの借入金による割引(貸付)の二通りの方法をとつていたので、被告は、それぞれの貸付金について、次のとおり計算した。

すなわち、自己資金による貸付金については、原告は顧客(貸付先)から貸付金が返済された場合にこれを株式会社呉相互銀行福山支店及び株式会社広島銀行福山胡町支店の各普通預金口座へ入金していたので、被告は、同預金口座の入金額のうち、入金原因が貸付金の回収分でないと明らかに認められるもの(右両銀行からの借入金、銀行預金利息、他の預金からの振替え、不渡手形買戻金等)を除外したものをもつて、すべて貸付金の回収分と推認し、同金額が原告の自己資金による貸付金であると認定した。これによると原告の自己資金による貸付金額は、昭和四四年分一六、五九七、〇一〇円、昭和四五年分二三、九三七、〇〇〇円、昭和四六年分四一、七八四、六三二円となる。

また原告の他の金融機関からの借入金による貸付金については、被告において、原告の各取引先(借入先)を調査した結果、昭和四四年分三二、三三四、〇一二円、昭和四五年分四二、六二五、八六〇円、昭和四六年分三七、九〇九、八〇〇円であることが判明した。

従つて原告の本件係争年分における貸付金は、右両者の合計額であるから、昭和四四年分四八、九三一、〇二二円、昭和四五年分六六、五六二、八六〇円、昭和四六年分七九、六九四、四三二円である。

(貸付利率)

被告は、貸付利率の認定に当り、顧客(貸付先)ごとの具体的な貸付金額及び貸付期間に対応した利息収入を調査しようとしたが、原告及びその顧客(貸付先)は、貸金についての証拠資料を保持しておらず、一部の顧客(貸付先)についての貸付利率が判明したにすぎなかつた。

従つて被告としては、やむなく単純平均により原告の貸金の貸付利率を認定せざるを得なかつた。

被告の調査により判明した原告の顧客(貸付先)八名に対する貸付利率は、日歩三〇銭、一九銭、一八銭、三〇銭、一七銭、三〇銭、三三銭、三〇銭であつたから、これを単純平均すると日歩二五銭となる。

(30+19+18+30+17+30+33+30)銭÷8=25.8銭(銭未満切捨)

(貸付日数)

原告の貸付方法のうち、自己資金による割引(貸付)の場合の貸付日数が不明であつたので、借入金による貸付の場合の平均貸付日数をもつて原告のすべての貸付の平均貸付日数とした。これによれば原告の貸付日数の平均は昭和四四年分五〇・四日、昭和四五年分四二・五日、昭和四六年分四三・〇日となる。

(利息収入金額の算定)

従つて原告の貸付額、平均貸付利率、平均貸付日数により原告の利息収入金額を算定すれば別表四のとおりである。

(2) 一般経費について

一般経費については、利息収入金額が原告と同程度の同業者の平均経費率(別表四の同業者の平均経費率欄の率)を求め、これを原告の各年分の利息収入金額に乗じて原告の各年分の一般経費を算定した。

(3) 特別経費について

(借入金利子、割引料)

原告が貸付資金の借入先へ現実に支払つた借入金利子、割引料を被告において調査した結果、その費用は昭和四四年分一、四七〇、〇〇七円、昭和四五年分一、五二六、七七五円、昭和四六年分一、八二二、八九二円となる。

(建物減価償却費)

原告が事業の用に供している木造建物(住居兼用)について取得価額が明らかでないので、同建物の昭和四四年分固定資産税評価額三八〇、八〇〇円を取得額とし、耐用年数二四年、事業専用割合を一五パーセントと認め、定額法によつて減価償却費を算出すると、係争各年分とも二、一六〇円となる。

(貸倒金)

原告の貸付金のうち別表五の各債務者に対する貸付金が回収不能と認められたので、被告はこれを貸倒金と認定した。

(4) 原告の貸金業に係る所得金額は右(1)から(2)及び(3)を控除したものであり、その金額は別表四の「一(一)貸金業に係る所得金額」の「5差引所得金額」欄記載の金額となる。

(三)  従つて原告の総所得金額は、事業所得金額(貸金業に係る所得金額と家具製造に係る所得金額の合計額であり、別表四の一(三)のとおり)と給与所得金額(但し、昭和四六年分のみ)との合計額で、その金額は別表四の「三総所得金額」欄記載のとおりであり、本件課税処分にかかる総所得金額(別表四の「四本件課税処分の金額3総所得金額」欄記載のとおり)は、原告の実際の総所得金額の範囲内であるから、本件処分は適法である。

五  被告の主張に対する原告の答弁

被告の主帳(一)の事実は認める。同(二)の1の事実のうち、原告の家具製造に係る所得金額及び給与所得金額が原告の確定申告額どおりであることは認めるが、その余は争う。なお被告が、原告の貸金業に係る所得金額の算出につき推計計算の方法によつたことの当否は争わない。同2の事実のうち、原告の貸付金、貸付日数、一般経費についての同業者の平均経費率及び特別経費のうち、借入金利子、割引料、建物減価償却費が被告主張のとおりであること、貸倒金が少なくとも被告主張の額は存することは認めるが、その余は争う。貸付利率については原告は日歩二〇銭以上の利息をとつたことはないし、また被告主張の八名に対する貸付利率の単純平均という方法には何ら合理性がなく、被告主張の貸付先のうち、税理士が記帳したものである日歩一九銭の利率が正確というべきである。

六  被告の主張に対する原告の反論

原告には、被告主張の貸倒金のほか、別表六のとおりの貸倒金が存するから被告はこれを特別経費として控除すべきである。

七  原告の反論に対する被告の答弁

争う。

八  証拠関係

原告は、甲第一号証の一ないし七、第二号証、第三ないし第六号証の各一、二、第七号証の一ないし四、第八号証の一、二、第九号証、第一〇号証の一、二、第一一ないし第一四号証、第一五号証の一、二、第一六号証、第一七ないし第二四号証の各一、二、第二五号証、第二六ないし第三四号証の各一、二、第三五ないし第四四号証を提出し、証人光成小太郎、同猪原毅、同井上健司、同菱口タマ、同岩田泰夫、同佐伯好昭、同山中末子、原告本人の各尋問を求め、乙号各証の成立はすべて認めると述べた。

被告は、乙第一ないし第一七号証、第一八号証の一、二を提出し、証人森正樹、同徳永春三の各尋問を求め、甲第二、第一一、第一二号証、第一五号証の一、二、第一八ないし第二二号証の各一、二、第三〇号証の一、二、第四四号証の成立はいずれも認めるが、その余の甲号各証の成立はすべて不知と述べた。

理由

一  請求原因(一)ないし(三)の事実並びに被告の主張(一)の事実及び原告の家具製造に係る所得金額及び給与所得金額が原告の確定申告額のとおりであることは当事者間に争いがない。

二  原告の貸金業に係る所得金額について

(一)  推計の必要性について

証人森正樹の証言によると、福山税務署職員が原告の昭和四四年分ないし昭和四六年分の所得税の調査をしたところ、原告は、無届で貸金業を営んでおり、右各年分の貸金業に係る所得金額を申告していなかつたこと、そこで福山税務署職員が原告に対し関係帳薄の提出を求めたところ、原告がこれを保存していなかつたため、貸金業に係る所得金額の実額を把握することができず、やむなく推計による課税を行なうこととしたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

そうすると、原告の貸金業に係る所得金額について、その実額を把握することは困難であつたといわざるを得ないから被告が推計計算の方法により原告の貸金業に係る所得金額を算出したことは正当であるということができる(なお、被告が推計による課税を行なつたことの当否は原告も争わないところである。)

(二)  推計計算の合理性について

1  原告の貸付金額、貸付日数、一般経費についての同業者の平均経費率並びに特別経費のうち、借入金利子、割引料、建物減価償却費については当事者間に争いがない。

2  貸付利率について

原告は、被告が推計した貸付利率は高額に過ぎる旨主張するので検討するのに、成立に争いない乙第一ないし第八号証、証人森正樹、同徳永春三の各証言及び弁論の全趣旨によると、被告側の担当職員が原告の貸付金の貸付利率を調査するため、原告の顧客(貸付先)約三〇名に対し照会したところ、うち約一五名から回答があり、そのうち貸付金、貸付利率が確認できたものは八名程度であつたこと、貸付利率については、右八名のうち、訴外山中昭夫の妻末子は、原告の貸付利率は月九分だが、他に酒、たばこ、砂糖などの御礼をしているため、大体月一割くらいになつた旨、訴外進洋建設株式会社(以下、進洋建設という)代表者門田豁は、同社に対する貸付利率は日歩一五ないし二〇銭くらいであり、同人の従兄弟訴外門田安弘に対する利率は日歩三〇銭くらいであつた旨、訴外国貞克美は日歩一七、八銭くらいであつた旨、訴外有限会社佐伯商事(以下、佐伯商事という)の代表者佐伯好昭は、月五分から一割であつた旨、また訴外井上木履有限会社(以下、井上木履という)代表者井上健司は日歩三〇銭以上であつた旨、それぞれ被告側担当職員に供述したこと、さらに近畿環境開発株式会社(以下、近畿環境開発という)の税理担当者に対する原告の貸付利率の照会の結果では日歩一八銭七厘であつたことが、また被告側担当職員が岩田康夫の所得調査をしたところ同人に対する原告の貸付利率は、日歩三〇銭であつたことがそれぞれ判明したこと、そこで被告は、山中昭夫に対する原告の貸付利率が日歩三〇銭、近畿環境開発に対するものが日歩一九銭進洋建設に対するものが日歩一八銭、岩田康夫に対するものが日歩三〇銭、国貞克美に対するものが日歩一七銭、門田安弘に対するものが日歩三〇銭、佐伯商事に対するものが日歩三三銭、井上木履に対するものが日歩三〇銭とし、これらを単純平均して貸付利率を日歩二五銭と認定したことが認められ、この認定に反する証拠はない。

しかし、証人山中末子、同菱口タマの各証言によると、山中昭夫が直接原告から借入れしたことはなく、訴外菱口タマが山中昭夫振出しの手形を原告に持参し、同女が原告から貸付けを受けていたことが認められるのであり、この事実からすると、被告側担当職員に対する山中末子の供述は必ずしも信用できるものとはいい難いし、また、当裁判所の証人尋問において、証人井上健司は、原告からの井上木履に対する貸付金の利息は日歩二五銭であつた旨、証人佐伯好昭は、佐伯商事に対する原告の貸付利率は一定せず、高いときも安いときもあつた旨それぞれ証言していることからすると、右両名の被告担当職員に対する供述もにわかに信用できるものとはいい難い。

そうすると、原告の顧客(貸付先)のうち、その貸付利率を把握し得るのは、近畿環境開発に対する日歩一八銭七厘、進洋建設に対する日歩一五ないし二〇銭程度、門田安弘に対する日歩三〇銭くらい、岩田康夫に対する日歩三〇銭、国貞克美に対する日歩一七、八銭くらい、井上木履に対する日歩二五銭であるが、右貸付利率自体その多くが概数字であるのにとどまるのであつて、しかも証人森正樹が証言しているように貸付利率は、債務者の財産状況、返済能力、貸付金額の多寡、貸付期間の長短等により異なるものであるから、これらの条件を無視したまま、判明している顧客(貸付先)への貸付利率を基礎として、一律にこれを単純平均して原告の顧客(貸付先)に対する貸付利率とすることには十分な合理性があるとは到底いい難い。

従つて原告の顧客(貸付先)に対する貸付利率としては、原告が本人尋問において、自ら貸付利率は日歩二〇銭である旨述べていることからして、日歩二〇銭と認定する外ないというべきである。

なお、成立に争いない乙第二号証によると、近畿環境開発に対する原告の貸付利率日歩一九銭は税理士の記帳に基づくものであることが認められ、その正確性は高いということができるが、貸付利率の多寡は、前記のとおり顧客(貸付先)の個別事情に依存するところが大きいから、原告の近畿環境開発に対する貸付利率をもつて顧客(貸付先)全体に対する原告の貸付利率とみることはできない。

3  貸倒金について

原告の貸倒金として少なくとも被告主張の金額があることは当事者間に争いがない。原告は、さらにその外門田安弘らに対する貸倒金がある旨主張するので検討する。

(1) 門田安弘関係

甲第一号証の一ないし七によると、門田安弘が約束手形七通(額面合計三、七〇〇、〇〇〇円)を受取人白地で振出したかの如くであり、原告本人は、右各手形の額面相当額を手形貸付の方法で門田安弘に貸付けた旨供述するが、甲第一号証の一ないし七は、いずれも市販の約束手形用紙を使用したものであり、また「門田安弘」名下に押捺された「門田」の印影は、成立に争いない甲第一五号証の二の第一裏書人欄に押捺された同人の印鑑の印影と異なるものであることの外に、成立に争いない乙第一六号証によつて認められる「門田安弘の死亡時には、原告からの借受金の残金はほとんどなかつた」旨の門田豁の陳述、原告が右各手形を被告側担当職員の調査においても、貸倒金を主張した審査請求においても提出していないこと(証人徳永春三の証言、原告本人尋問の結果によつて認められる。)を併せ考えると、右甲第一号証の一ないし七か、門田安弘の真正な振出しに基づくものであるかは疑わしいといわざるを得ず、右書証の存在をもつて直ちにこれらの手形の額面相当額が原告の門田安弘に対する貸付金ということはできないし、他に原告主張の門田安弘に対する貸倒金を認めるに足りる証拠はない。

(2) 光成小太郎、猪原毅、菱口タマ、岩田康夫、井上木履関係

成立に争いない甲第一五号証の一、二、及び弁論の全趣旨によると、光成小太郎の妻光成ミツ子が門田安弘宛に振出した約束手形(額面二九〇、〇〇〇円)の額面相当額は、被告において、昭和四四年分の門田安弘に対する貸倒金と認定していることが認められるから、右二九〇、〇〇〇円については原告主張のように改めて光成小太郎に対する貸倒金として認定することはできない。

しかして、甲第一三、第一四、第一六号証、第一七ないし第二四号証の各一、二、第二五号証、第二六ないし第三四号証の各一、二、第三五ないし第四三号証(甲第一八ないし第二二号証の各一、二、第三〇号証の一、二については成立に争いがない。)によると、光成小太郎が振出した約束手形五通(額面合計五〇〇、〇〇〇円)及び同人が裏書した約束手形三通(額面合計三四二、〇〇〇円)、猪原毅の妻猪原愛子が裏書した約束手形三通(額面合計四六〇、八〇〇円)及び作谷貞造振出しの約束手形(額面九八、〇〇〇円)、菱口タマまたは同女の同居人寺尾似が裏書した約束手形九通(額面合計四、〇〇〇、〇〇〇円)、岩田康夫振出しの小切手または約束手形合計五通(額面合計一、〇〇〇、〇〇〇円)、井上木履振出しの約束手形四通(額面合計一、五四〇、〇〇〇円)が存するかのようであり、原告本人は、少くとも右各約束手形または小切手の額面相当額は手形、小切手の交付を受けて、光成小太郎の振出、裏書にかかる分は同人に、猪原愛子及び作谷貞造が裏書ないし振出した分は猪原毅に菱口タマ及び寺尾似が振出した分は菱口タマに、岩田康夫振出にかかる分は同人に、井上木履振出にかかる分は同人に対しそれぞれ貸付けた旨供述している。しかし、かりにそうであるとしても、証人光成小太郎、同猪原毅、同菱口タマ、同井上健司の各証言、証人岩田康夫の証言及びこれによつて真正に成立したものと認める甲第八号証の一、二、並びに原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認める甲第三ないし第五号証の各一、二、第七号証の一ないし四を総合すると、原告はこれらの約束手形や小切手を受領して貸付けた金員など従前の貸付金をまとめた結果、光成小太郎に対し二、〇〇〇、〇〇〇円、猪原毅に対し二、五〇〇、〇〇〇円、菱口タマに対し四、〇〇〇、〇〇〇円、岩田康夫に対し三、五〇〇、〇〇〇円、井上木履に対し二、〇〇〇、〇〇〇円の貸付金があるとして、原告が昭和四四年ないし昭和四六年分所得税更正処分に対する異議申立をした後に、これらの貸付金債権をすべて放棄し関係者からその旨の承諾書を受領していることが認められ、この認定に反する的確な証拠はない。

そうすると、前記の約束手形、小切手が真正なものであり、その額面相当額を原告が貸付けていたとしても、原告が被告に対し異議申立をしたのは昭和四七年一一月二五日であるから、原告の貸付金は右時点までは未回収債権として存在し、これを放棄した段階で回収不能が確定したものというべきであり、従つて税法上貸倒金と認定し得るのは、早くとも昭和四七年分の特別経費としてであるから、本件係争年度中には未だ貸倒の事実は発生していないものという外ない。

(3) 佐藤真吉関係

甲第六号証の一、二によると、佐藤真吉が受取人白地で手形二通(額面合計五〇〇、〇〇〇円)を振出したかの如くであり、原告本人は、右手形額面相当額を佐藤真吉に貸付けた旨供述しているが、甲第六号証の一、二はいずれも市販の約束手形用紙を使用して作成されたものであり、支払場所の記載もないこと及び原告が貸倒金を主張した審査請求において右手形を提出していないこと(この事実は証人徳永春三の証言によつて認められる)からすれば、果して佐藤真吉の真正な振出しにかかるものであるか、疑問があり、ひいては右各手形の額面相当額が原告から佐藤真吉に貸付けられたか否かも疑わしいといわざるを得ないし、他に原告主張の佐藤真吉に対する貸倒金を認めるに足りる証拠はない。

(4) 伊藤輝二関係

原告の本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認める甲第九号証によると、原告は、伊藤輝二に対し同人振出しの昭和四六年六月二五日付額面一〇五、〇〇〇円の小切手を受領し、額面相当額を貸付けたこと、伊藤輝二は原告からの借受金を返済しないまま行方不明となつていることが認められるが、本件全証拠によるも原告の伊藤輝二に対する貸付金が回収不能となつた時期を確定することができないから、右貸付金をもつて原告主張のように昭和四六年分の貸倒金とすることはできない。そうすると、本件係争年分中の原告の貸倒金としては、被告主張額に限られるものという外ない。

(三)  原告の貸金業に係る所得金額の計算

ところで原告の貸付金額、貸付日数、同業者の平均経費率並びに特別経費のうちの借入金利子、割引料減価償却費及び当裁判所が認定した原告の貸付利率、貸倒金に従つて原告の貸金業に係る所得金額を計算すると、別表七の「一の(一)貸金業に係る所得金額」欄記載のとおりとなる。

三  従つて、原告の昭和四四年分ないし昭和四六年分の総所得金額及びこれに対する所得税額、無申告加算税額、過少申告加算税額は別表七の三及び六ないし九のとおりとなるから、被告のなした課税処分は、右の限度では適法であるが、これを超える部分については違法である。

四  よつて原告の本訴請求は、被告のなした原告の昭和四四年分ないし昭和四六年分の所得税の更正処分及び無申告加算税賦課決定処分または過少申告加算税賦課決定処分のうち前記限度を超える部分の取消を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条九一条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森川憲明 裁判官 谷岡武教 裁判官山口幸雄は転任のため署名押印することができない。 裁判長裁判官 森川憲明)

別表一

昭和四四年分課税処分表

〈省略〉

別表二

昭和四五年分課税処分表

〈省略〉

別表三

昭和四六年分課税処分表

〈省略〉

別表四

総所得金額の計算表

一 事業所得金額

(一) 貸金業に係る所得金額

〈省略〉

(二) 家具製造に係る所得金額

〈省略〉

(三) 事業所得金額

〈省略〉

二 給与所得金額

〈省略〉

三 総所得金額

〈省略〉

四 本件課税処分の金額

〈省略〉

別表五

〈省略〉

〈省略〉

別表六

〈省略〉

なお、昭和四四年分の光成小太郎及び猪原毅に対する貸倒金、昭和四五年分の菱口タマ及び岩田康夫に対する貸倒金は、かりに右各年分の貸倒金として認められないとしても、いずれもその翌年分の貸倒金として認定されるべきである。

別表七

所得税等の計算

〈省略〉

〈省略〉

(注) 昭和四四年分の税額計算につき、昭和四四年法律第一四号附則三条、国税通則法六六条、昭和四五年分の税額計算につき昭和四五年法律第三六号附則三条、国税通則法六六条、昭和四六年分の税額計算につき昭和四六年法律第一一三号附則三条、国税通則法六五条を各適用。

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